• 小さい絵 『メダカ』




    『メダカー静寂』2014
    小さい額に閉じ込めた

    次女が小学2年の時に、学校の理科の授業でメダカを3匹もらってきた。その後、夏祭りで掬ってきてさらに増えた。偶然、買ってきたホテイアオイの根についていた卵から孵ったものも含め、春から夏にかけての繁殖期でじゃんじゃん卵が生まれ稚魚が育ってきた。掬ってきたもの中には弱っていたり尾腐れ病にかかったりして死んだものや、親メダカに卵のうちに食べられてしまったものもいたのだが、強いものや運の良かったものが生き残った。卵や稚魚たち専用のペットボトルで作った避難所も装備した。

    ベランダに置きっぱなしのプラスチック水槽の中のメダカは、冬になると青味泥の繁殖する水底に沈み姿が見えなくなってしまった。最初の冬には、無知な自分の雑な飼い方のせいで死なせてしまったと思っていた。しかし翌春になりポカポカしてきたころ、水槽を洗おうと乾涸びた藻の蓋をメリメリ剥がしてみたら、なんと!辛うじて残っていた小さな水たまりの底に、寒い冬の日に見失ったメダカの姿を発見したのだ。メダカって冬眠するんだと知った瞬間だった。

    でも、メダカたち全員が生き残れる訳ではなかった。春先から夏までに生まれたメダカたちは寒くなるまでに成魚となり繁殖もできる様になっていく。そのくらいになればちょっとくらい過酷な環境での冬越しもどうってことはないようだ。しかし、秋生まれで寒くなるまでに大きくなれなかったちびっこにとっては厳しい。翌春に再会ならずどころかすっかり影も形もなくなってしまう。

    水草はアナカリスとホテイアオイ。いつの間にかボルボックス?のような濃緑色の微生物が繁殖し始め、水換えしなくても常に綺麗な状態を保つようになった。ただ、中の様子を水槽の側面からも観察したかったのでタニシも入れた。タニシは水槽の側面の壁に付く藻を好きな様に食べて歩くので、自分の食べ歩いた通りに道ができる。たまに水面に浮かぶメダカの餌も足で抱え込んで食べる。掃除機の様な奴だ。

    元々いたメダカで寿命で旅立ったものもいたが、4年後の夏には総勢33匹の大所帯になった。中でも1番の古株は、2世代めのブチ模様のゴッドマザー。家のメダカ水槽の主だった。餌を撒けば1番に飛びつきお腹がパンパンになるまで離れない。体長は4センチ以上あり丸々している。卵もどんどん生み、このゴッドマザーの子供たち(特に雌)も強かった。2番目は、3代目の金色に輝き端正な姿をしていたゴッドマザーより少し細めの雌。この2匹が中心だった。雄たちには何故だか、若く美しい美魚よりも圧倒的な強さのゴッドマザーの方が人気があった。雄の勢力は弱く数も少なかった。トップ2の雌に言い寄っては追い払われ足蹴にされそれでも向かって行くものだけがお父さんになれた。痩せた黒メダカ2匹とヒメダカとブチメダカの4匹がよく挑んでいた。

    卵から赤ちゃんが孵るのが、それはそれは楽しみだった。姿形や行動や性格を観察して誰と誰の子か大体わかるんだ。最初は擂り潰した餌をやり、徐々に大きく立派に育っていく姿を毎日感じることが嬉しかった。若い両親から生まれてくる赤ちゃんも増えてきた。

    ところが‥
    マンションの大規模工事のために、ベランダを空っぽにしなくてはならなくなり、メダカ水槽(この時期にはバケツ水槽)も、他の金魚バケツや植物とともに半年間室内に移動した。室内飼育の勝手が分からず、晴れた日や作業のない日に外に出す等々、いろいろやってみたのだけど、2ヶ月もしないうちにバタバタと尾腐れ病にかかり、小さく弱い物たちがまずやられた。隔離したり水を換えたり薬を使ったりしたものの追いつかなかった。とうとうある朝、あのゴッドマザーも固くなっていた。
    だだ一匹、いつも強い雌たちや自分より大きいものたちに追い払われ、居場所無げにアナカリスの茂る水底の暗がりに佇んでほとんど餌にも有り付けなかった痩せたブチ模様の雄だけが生き残った。この雄はゴッドマザーの息子。両親も奥さんも子供たちも親戚も友だちも皆死んでしまった。

    外で暮らす魚にとって、太陽と風がどれだけ大事か実感した出来事だった。

    それから1年、たった1匹で、増えたタニシたちと暮らしているよ。誰から追われることもなく静かにひっそりと。暖かい日差しの当たる日には、控えめにお日様を浴びに上がってくる。お日様色と同じ色、スッとした優しい背中をしているんだ。







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